能管古管が久しぶりに入荷致しました。新管(製作されてから30年未満の笛)でさえ、煤竹の本管(竹製)となると手に入れることが容易ではありません。この機会に是非、新大久保にて能管本来の響きを持つ古管の魅力をお試しください。
さて、「古管の魅力をお試しくださいと、云われても能管なんて触ったことがないという方が大半かと思います。
ただし、殆どの方は能管の音は、一度は耳にしているかと思います。テレビ番組やドラマの緊迫シーンなどでヒャーと鳴る、あの甲高い笛の音が、能管です。また、幽霊が現れる場面のひゅ〜ドロドロのひゅ〜の笛の音。これも能管。ただし、これらの音は、あくまでも能管の特徴を効果音的に用いたものです。
能管の本来は、名前の通り、日本古来の舞踊劇である能で使われる笛です。僭越ながら、THE中古楽器屋和楽器販売責任(兼管楽器販売責任)のわたくし水本が、楽器としての能管の奥深さと不思議な特徴など二回に渡り、解説させていただきます。
能管解説(其の壱)
能楽囃子で使われる唯一の吹奏楽器。能の世界では、そのまま単に“笛(ふえ)”と呼ばれる。横笛でありながら、西洋音楽的なメロディを持たず、唱歌(※)を元にした節回しをリズミカルに力強く吹き鳴らす。能楽囃子においては打楽器的な役割も担う。
(※)唱歌(しょうが)…「オヒヤラアリヒウイヤ ヒウ−ロロラア−」のように音の聞こえ方を片仮名で譜に表記したもの。唱歌には音の高低はあるが、絶対的な旋律ではなく、ニュアンスに重点をおいた節回しに近い。ただし拍子(リズム)については極めて厳格に規定されている。
全長39センチ前後。管外径3センチ前後。笛材は竹。先端から歌口までの頭部分には節の太い真竹などの男竹が使われているものが多く、節の細い篠竹(女竹)と接がれている。指孔(ゆびあな)は同一線上に七つ開けられている。
管の内外は生漆と砥粉などを混ぜた下地漆、朱漆が幾層にも塗り重ねられている。節と歌口、指孔以外の部分には樺
桜の表皮を裁断して紐状に繋いだものや籐が巻かれ、その上からさらに黒漆が塗られている。指孔の間や歌口周りは竹の外皮は削られ、猫掻き、谷刳りと呼ばれる技法が施されている。
頭部の裏側の爪形部分は、黒檀や紫檀などの別材が嵌めこまれている。昆虫の蝉を表した意匠であることから、この部分をセミと呼ぶ。
上記の通り、堅牢に成形された耐久性に優れた笛であり、吹き込まれるほどに豊かな響きに変化を遂げていく。百年目からようやく本領を発揮すると云われおり、笛方が舞台で使う能管は三百年以上前に作られた古管であることも珍しくはない。ただし、乾燥には弱いため、良いコンディションを保つためには継続的な息入れが不可欠である。
能管の歌口内部の蜜蝋(写真左)は、西欧楽器のフルートにおける頭部管内の反射板に該当する。その位置や分量の増減により、能管全体の鳴りやバランスを大きく左右する要となる。他の部分が固い材で堅牢に成形されているのに対して、この部分のみ柔軟性に富んだ材が使われている所以である。蜜蝋は経年の吹き込みによる劣化の際や、笛自体の響きの変化、笛方との相性に応じて、溶かして調整する。
笛の先端に彫金したは金や銀の金具が嵌めこまれており、頭金という。ただし、長い年月の間に笛方の手から離れた時期があると、腕の良い彫金師の手による頭金が抜き取られていることも珍しくはない。
いにしえの能管、竜笛が続々と入荷致しました。